Aug.16.2010 F4クラッシュ・テスト
8月12日、もてぎでテストを行っていたZAP F108が、ブレーキ配管のトラブルにより3コーナーをノーブレーキで直進しタイアバリアに激突し、ドライバーの土屋祐輔選手はかなりの衝撃を受けて首などの痛みを訴えたので、検査の為に病院に運ばれ精密検査を受けました。
診察の結果は、幸い、特に問題はないとのことでしたが、むち打ちの可能性が高いので経過観察中です。
このアクシデントが発生してしまった経緯にもいろいろ反省すべき点はありますが、ここでは、図らずも実車によるクラッシュ・テストとなってしまったこのアクシデントのデータを最大限に活かして、今後の安全性の向上に役立てるように分析/解析を進めています。
まだ全容が解明されたわけではありませんが、現時点で明らかになった状況をお知らせいたします。
ロガーデータによるクラッシュ直前の関連データから状況を推測するに、コースアウト時の速度は約90Km/h、衝突速度は約45Km/h、衝突時の最大減速度は約13Gと推測されますが、搭載していたデータロガーのサンプリング・ピッチが荒く、また精度が低いので数値の信頼性は高くありません。
これは、ロガーデータおよび周辺状況から類推した数値ですが、総合的に判断して大きくは外れていないと考えています。
写真からも解るように、レギュレーションで定められたアルミ製のクラッシヤブルストラクチャーは完全につぶれて圧縮されており、ほとんど衝撃吸収に効果がなかったことを示していますし、モノコック前端に取り付けられているマスターシリンダも、ぽっきりと折れ曲がるほど破壊されていました。
衝撃は、ほぼダイレクトにモノコックに達しているものと思われ、モノコックの細部にも影響を及ぼしていますが、簡単に修復または部品交換で修復できる範囲であり、事実上、損傷は皆無といえる状態でした。
問題は、この壊れないカーボン・モノコックの特性にあり、もし、モノコックが障害に激突する前にこの衝撃を減衰しておかないと、衝突時の減速Gがもろにモノコックに伝わります。そうなると、壊れにくいカーボン・モノコックの特性が逆効果となり、衝撃がもろにドライバーに伝わりますから、極端なGが加わった場合、外観上は無傷でも内臓破裂や脳挫傷に至る可能性もあるのです。
一方、アルミ・モノコックの場合は全体的につぶれていく傾向にありますから、多少は、モノコック自体がつぶれながら衝撃吸収するという効果もあるかもしれませんが、カーボン・モノコックに極端なGが加わった衝撃で内臓破裂や脳挫傷に至るような衝撃がアルミ・モノコックに加わった場合、アルミ・モノコックの中にドライバーの生存空間は無いでしょうから、いずれにしても比較すること自体がナンセンスといえます。
つまり、カーボン・モノコックの安全性はクラッシヤブルストラクチャーやHANSストラップなどの安全装備とセットで完全になるという事であり、現在のアルミ製クラッシヤブルストラクチャーしか使えないレギュレーションは非常に片手落ちと言わざるを得ませんので、JMIAでは、カーボン・モノコックの採用と同じくカーボン製のクラッシヤブルストラクチャーについてもJAFに提言を続けてきました。
どうやら、クラッシヤブルストラクチャーに関しては来期から承認される方向で進んでいるようですが、タイヤとヘルメット丸出しのフォーミュラカーにはまだまだ危険性が満ち満ちています。
今回のアクシデントに関しても、もし、より高速での衝突なら大事に至っていた可能性もありますし、一方、今年からカーボン製のクラッシヤブルストラクチャーが認められていたらドライバーへの衝撃は半減していたでしょうし、事、安全に関して泥縄方式は単なる怠慢にしかすぎません。
JMIAではJAFに対して、2009年9月22日に、F4の安全性向上に関する包括的な提言を行っており、側面衝突の対策やタイヤの噛み込みの防止策を中心に様々な対策の提案を行いましたが、10月13日に、「コンストラクターの車両準備への影響も考慮すると、難しい状況にあります」と検討には否定的な回答が返ってきました。
コンストラクターからの提案ですから、この回答は的外れとしか言いようがありませんが、何か、基本的に立場が異なっているような違和感を禁じえません。
コンストラクター側からコストアップになり開発費もかさむ安全性向上に関して提案を続け、JAFがそれをしぶしぶ追認していっているような現状がとても不思議な気分です。
本来は、様々な安全対策を強要されて、コストアップに耐えかねた業界から何とか緩和してほしいと陳情するくらいの話が当たり前のような気がしますし、JAFからJMIAに対して、次々と安全性に関する様々な分析や実験の依頼が舞い込んできてもおかしくないのに、コンストラクターが、自らに手かせ足かせをつけるような努力というのも結構むなしいものです。
カーボン・モノコックの採用が難航した経緯も、クラッシヤブルストラクチャーのカーボン化が遅れている理由も、その他の安全対策の目途が立たない現状にもイライラは募りますが、現実問題として、毎日のように2000ccのフォーミュラ・マシンがサーキットを疾走していますし、そのコックピットの中では、若手のドライバーが限界に挑戦している訳ですから、日本の自動車レースの行政を司るものとして、もう少し安全に対して積極的でも罰は当たらないと思いますが。
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