F20は、共通のモノコックを使用すること、そして直径20mmのリストリクターを装着することを除くと、総てが自由なカテゴリーですから、フォーミュラでもスポーツカーでもあらゆるボディを組み合わせることが可能です。直径20mmのリストリクターは、決して大きなパワーを許容することは出来ません。ですから、どうしても軽く仕立て易いフォーミュラタイプをイメージしてしまいますが、空力性能を考慮するとスポーツカータイプが有利となることは明らかです。 童夢が空力開発の分野の第一人者であることはご存じだと思います。もちろん童夢は迷わずスポーツカータイプでF20を開発しています。しかも、常識的な“屋根無し”ではなく、何と“屋根付き”のスポーツカーでF20を開発しています。共通のモノコックはシングルシーターですから、コクピットの幅は非常に狭くなります。しかも基本的に“屋根無し”であることを対象としてモノコックはデザインされましたから、通常の“屋根付き”のようにドアを設けることが出来ません。 そのため、林みのる曰く「ピザ屋のスクーター」のようなキャノピーを設けて、“屋根付き”のスポーツカーを実現しました。 圧倒的に少ないドラッグを実現しているのは明らかですが、大きなボディの分だけ重くなることが悩みであるようです。
F20はフォーミュラでもスポーツカーでもどちらでも可能ですが、フォーミュラの場合、どうしても空気抵抗が大きくなり易く、スポーツカーの場合、大柄なカウルの分だけ重くなってしまいます。そこでムーンクラフトは慎重に考えた結果、限りなくフォーミュラに近いスポーツカーとしてF20を開発することを決定しました。 基本はフォーミュラですが、フォーミュラのウイークポイントである剥き出しのタイヤをカバーすることで、優れた空力性能を狙いました。 徹底した低ドラッグの追求を目標としてデザインされたため、ウイングカーではなく、小さなサイドポンツーンの下はフラットボトムとなっています。しかし1990年代初めのF1GPマシンのような、テイルエンドに効率の高いディフューザーが設けられています。リアフェンダーは完全にタイヤをカバーするスパッツとなっています。当初フロントフェンダーは、ステアリングを切ると一緒に偏向するタイプも検討されたようですが、タイヤだけがステアするタイプを採用して、フロントウイングによって、左右のフロントフェンダーは結ばれています。フロントタイヤにはホイールカバーが取り付けられドラッグを減らしています。 ほとんどフォーミュラカーと変わらない軽い車重を実現していることでも、ムーンクラフトの狙い通りの開発が行われているのでしょう。 1970年代のCanAmカーのようでもありますが、何も予備知識無しで、このマシンを見たなら、新しいアニメーションのためにデザインされたメカとしか思わないかもしれません。このマシンは、何々のよう、と言うより、F20そのものと表現すべきでしょう。
東京R&Dは、もっとも常識的と思われるフォーミュラタイプでF20を開発しています。他の2台のF20プロトタイプと比べると、ボディデザインにも派手さが無いため、地味な印象を持たれる方も多いことでしょう。ところが、カウルの内側には工夫が詰め込まれています。 東京R&Dは考えられる最高の空力技術を盛り込むことを目論みました。真っ先に1993年グループCカーの消滅と同時に姿を消したウイングカーとすることが決まりました。さらに、サスペンションのバネ下に直接ダウンフォースを与えると、大きなアドバンテージを得られることから、リアサンペンションのアームやアップライトにリアウイングを取り付けることが検討されました。 ところが、実際にサスペンションアームやアップライトにリアウイングを取り付けた場合、もし、不慮のアクシデントによって、リアウイングが脱落した場合、大きなアクシデントに発展する可能性が捨てきれません。そこで、サスペンションのバネ下に直接ダウンフォースを与える試みは諦めることとなりました。 安全性についても、東京R&Dは、非常に面白い工夫を盛り込んでいます。F20は、JMIAが提案する新しい製法のカーボンファイバーコンポジット製モノコックを使用するため、画期的な安全性を実現しています。しかし、安全過ぎる、ということはありません。そこでサイドポンツーンの内部には耐クラッシュパッドを追加しています。 第一フォーミュラカーの場合、タイヤとタイヤが接触することで、クルマが宙を飛ぶ危険に常に晒されています。そこでリアウイングの下部に直径10㎝ほどのカーボンファイバーコンポジット製のパイプで作ったリアバンパーを、リアタイヤの後方を覆うカタチで取り付けています。