いままでの日本の自動車レースの発想の原点はドライバーのテクニックを競い合う事にあり、それが全てでそれしかありませんでした。 「いつか、天才的なF1 ドライバーが出現すれば日本の自動車レースが変わる」という悲願のもとに、いろいろな仕掛けが考えられ数多くの若者たち が育てられてきましたが、一方なぜか、自動車レースの本質的な要素である技術の戦いは軽視され、そのほとんどが海外の既存技術に丸投げされる ことが常態化していました。 しかし残念ながら40 余年待ち続けても、セナもシューマッハも出現せず、その結果、日本の自動車レースがどうなったかと言うと、未だ、レース結 果は五大新聞にもほとんど掲載されずテレビの中継も無く、街中でドライバーがサイン攻めに会うこともないマイナーな状況が続いています。

では、期待通りに日本人F1 ドライバーが誕生したとしても、過去の全てのドライバーがそうであったように、大枚のお土産を持たせて関連チームに 押しつけるのが精いっぱいで、セナやシューマッハのように稼いでくれる訳ではないし、その上、そのドライバーが日本に帰ってきて若手ドライバ ーを育てるルーティンが繰り返されるだけですから、そこに浪費はあっても何の生産性も未来もありません。 一方、先進の自動車開発技術の戦いである自動車レースにおいては、カーボン・コンポジット開発技術と空力開発が技術の中核となっており、これら の先進技術は、そのまま、現在の自動車が抱える環境問題に直結した技術であり、飛行機がそうであるように、これからの自動車の軽量化にはカー ボン・コンポジットの開発技術が欠かせませんし、高速道路での数パーセントオーダーの燃費改善には空力開発技術が欠かせません。

このように、重要度において比べようも無いこれらの2 つの事柄が、一つはことさら過大に、一つはまるでないがしろにされてきた現実が何とも不 思議な日本の自動車レースですが、日本の自動車レースは、何が何でもドライバーを育成することだけが唯一の目的ですから、その為には、ドライ バーの力量が公正に比較しやすいとか、技術面での競争はコストアップにつながるとか、外国の実績のある車体を輸入するのが賢明とか、まあ、表 だってのもっともらしい理由はいろいろ言われていますが、根底に流れるのは、ドライバーのことしか考えられないレース界の人たちの狭量な頭の 構造と、日本の全ての自動車レースを資金面で支える自動車メーカーの担当者の気楽な方向へ流されやすい傾向が、ある意味、厳しく実力を問われ 結果責任の見えやすい技術の戦いを回避する現在の日本の自動車レースのスタイルを作り上げてきたように思えます。

しかしこのまま、日本の技術力の育成を忘れ海外への資金流出を野放しにすれば、日本から流出する資金でますます成長強化される外国の技術力や 自動車レース産業と、ないがしろにされ続けてますます疲弊していく日本の技術と自動車レース産業には絶望的な格差が生じてしまうでしょう。 最近は、ともすれば忘れられがちですが、この資源もろくに無い小国を支えてきた原動力は、その卓越した技術力と工業力であることに異論は無い でしょう。そのシンボル的な存在である自動車メーカーの自動車レースへの取り組み方は信じられないほど片手落ちですが、日本の優秀な技術者に 少しのチャンスを与えれば、日本人の英知と工業力は瞬く間に世界のレース界を席巻するレベルに到達することは間違いありません。そうして豊か になったレース界になくてはならない存在がドライバーであり、ドライバーはそうして育つのが正しいのです。

このような日本の自動車レースの現状を抜本的に改革するための第一歩がこのFORMULA1000 の企画です。
改革と言うと一夜にして状況が一変するようなイメージがありますが、長きに亘りレーシングカー造りから遠の いていたわが国の技術者たちに、ただちにF1 のような高度なレーシングカーを造らせるには無理がありますから、 まずは環境作りから始めなくてはなりませんし、レーシングカー開発のインフラの整備も必要不可欠です。 しかし何よりも、プロもアマチュアも含め、いろいろ多くの人たちのレーシングカーを造って競争したいという 気持ちの盛り上がりが重要ですから、始めてレーシングカーを作る人達にも取っ付きやすいように、あらゆる 開発支援策を設けてハードルを下げ、多くの潜在的なフリーク達に、「自らの技術で開発したレーシング カーでレースを戦う」魅力を知ってもらうことを基本的なコンセプトとします。
だから、初めての人にも親しみやすくしなければならないし、むやみにお金がかからないような配慮は必要ですが、 一方、本質的には自動車の開発技術の戦いなんですから、出来る限り先進の技術の導入や自由な発想を制限しない レギュレーション設定を心がけなければなりません。そのために、エンジンには1000cc くらいの排 気量に適したリストリクターの取り付けと市販の自動車のエンジンであることを義務付けますが、その他は、 排気量もターボも自由とします。車体に関しては、安全性の確保のためにJMIA 指定のモノコックを使ったり 脱出のための機能的な規制はあるものの、それ以外は、外形寸法を規制するだけの大変に自由度の高いカテゴリ ーを目指しています。
エンジンのチューニングも自由ですし、モノコックが一定ですからモノポストではありますが、ボディはオープン でもクーペでもフォーミュラでも何でも可能です。そうして完成した作品の実力を競い合う場としての FORMULA1000 RACE の開催を目指しています。

そのために、日本自動車レース工業会では骨格となるカーボン・コンポジット・モノコックの製品化を進め、同時に、主要部品や図面の販売、設計支援、オリジナル パーツの製作の手配などの支援体制の構築を急いでいます。また、日本自動車レース工業会の会員有志がサンプルとなるプロトタイプを製作し、各地で展示やデモラ ンを行いつつ、2010 年からの本格的なレースの開催に向けて準備を進めていきたいと考えています。
では、レーシングカーが大好きなサラリーマンA 氏が、FORMULA1000 に参戦するまでのストーリーをご紹介しましょう。
自動車レース雑誌でFORMULA1000 のことを知ったA 氏は、思わず、「これだ!」と叫んで、ただちにJMIA のサイトにア クセスし概要をチェックするとともに資料を取り寄せました。その資料には、詳しい開発手順が説明されており、自分の 力量でもオリジナルなレーシングカーを造れることを確信したA 氏は、さっそく、FORMULA1000 CLUB に入会し、より 詳しい情報が得られるFORMULA1000 のサイトへのパスワードを入手するとともに、モノコックやフュエルセルなどの使 用を義務付けられた部品類のカタログと、JMIA で取り扱っている標準部品のカタログと、一般的に市販されている購入可 能なパーツ類のメーカーのデータと、JMIA が手配できる各種の加工屋さんのリストと、エンジンチューナーのリストなど を入手しました。
かねてよりS 社のファンだったA 氏はS 社のエンジンを使う事にし、モノコックへの接続はまだ自信がなかったのでJMIA の標準部品を使用することにし、その他の部品に関しても、できるだけJMIA の標準部品から選ぶことにしました。 しかし、昔参加していたワンメイク・レースでも、ダンパーのセッティングにはこだわっていたA 氏は、ダンパーだけは別 途のものを使いたかったので、サスペンションの一部の製作と改造が必要となりました。また、ボディについても、昔の CAN-AM が大好きだったA 氏は、オープンのスポーツカーにこだわっていましたので、好みのCAN-AM カーの写真や自分 で描いたポンチ絵をJMIA のリストにあったカウル屋さんに送って見積りを依頼し、オリジナルボディを製作することにし ました。
このボディの完成予想図をFORMULA1000 のサイトに掲載していたら購入希望者が2 人出てきたので3 人で割り勘で作る ことになり、思わぬところで経費の節減となりました。
当面、エンジンはスタンダードのままで様子を見ることにしていたので、JMIA をはじめ各所から送られてきた部品と買い たてのツールボックスをガレージに並べ、憧れのバックヤード・ビルダーの世界が始まりました。 不慣れなために細かい不足部品が続出したりして手間取りつつも何とかシャーシが完成した頃、オーダーしていたボディ が到着し、やっと最終組み立てが始まりました。
小さくとも本格的なレーシングカーですから、ちょっとそこらで試走と言う訳にはいきませんから、本格的なシェイクダ ウンはJMIA の公式テストデーを待たなくてはなりませんが、一刻も早く走りたいA 氏は、以前よく通っていたカートコー スの営業終了直後を貸してもらい、試走とセッティングを繰り返していました。
FORMULA1000 のレースに正式に参加する為には、JMIA のオーディションをパスする必要があります。公式テストデーの 早朝、パドックで厳密な車両検査が行われ、充分な安全性が確認されればJMIA に登録されゼッケンナンバーが発給されます。 ドライバーは友人のF4 ドライバーに頼んでレースに参加を始めたA 氏ですが、シャーシとエンジンはほとんどスタンダー ドですから一線級のマシンと比べればクラスが違うほど速さが劣るので、自信を付けたA 氏は、シャーシの大改造とボディ の空力開発に着手することにしました。
このように、やる気と少しの場所と必要な資金があれば比較的容易に参戦までは漕ぎつけますが、本格的に上位を狙うに は、これからまだまだ高度な開発が必要となります。
JMIA では、順次、これらの高度な開発要求 にもこたえられるような支援体制を構築し ていく予定です。近い将来には、個人のパ ソコンにインストールできるような比較的 軽便な3DCAD とFORMULA1000 のサイト を接続することにより、各種部品の図面や データが取り込め、基本レイアウトからド ライビング・ポジションの決定や視界のチェ ックなどが行え、容易に設計が進められる ようなシステムを構築していきたいと考え ています。その上で、次の段階としては、 CAD で作成したデータから風洞用モデルを オーダーして風洞実験を行ったり、コンピ ュータ上での空力解析(CFD) を依頼するこ とができたり、サブフレームやサスペンシ ョン・アームなどの強度解析(FEM) やサスペ ンション・ジオメトリー解析ソフトの使用も 可能となったり、現実のコースデータから 構築されたラップ・シミュレーターの中で性 能確認やセッティング・データの分析などが 行え、デビューレースに備えてのドライビ ングの練習にも活用できたりするような世 界に類を見ないレーシングカー開発システ ムを完成させて、今までの遅れを一気に取 り戻したいと考えています。
これらのソフトやデータはほとんどが既存 のものなので実現は容易ですが、これらの システムを構築する価値のある程、 FORMULA1000 が盛んになっているかどう かが問題ですが。
FORMULA1000 のレースを立ち上げる事はそれほど難しいことではありませんが、日本の自動車レースを改革するほどに盛んにすることは簡単ではありませ ん。特に、従前のドライバーの育成一本やりの日本のレース界の理解を得ることなく、いくらJMIA が独自に努力したところで目的の達成は程遠いことでし ょう。
最初に述べたように、今までの日本の自動車レースの方向を決してきたのは、日本の自動車レースの全ての資金源である自動車メーカーの意思によるもので すから、まず、自動車メーカーの理解を得て協力をお願いするところから始めなくてはなりません。 長きに亘って、率先してドライバーの育成を重視して技術や産業を疎んじてきた自動車メーカーの考え方が簡単に覆るとは思えませんが、今ではなく未来を 考えたら自ずから答えは一つだと思いますので、鋭意、ご理解を得られるように努力を続けたいと思っています。
モノづくりが復活し機械としての自動車への理解が高まり、近年、減少の一途をたどる「カーマニ    ア」が増えることになるでしょう。
自動車レース産業が元気になり技術力が向上し、レース界内における資金の還流が始まること    によりレース界が豊かになります。
自動車レースの本質である技術力の戦いがクローズアップされるほどに、レース界の人たちの    自動車レースに対する見識が高まり、何事にも正鵠を射た判断ができるようになるでしょう。
セッティングや空力などに関して、高度な技術的理解度の中で育つドライバーは、ステップアッ    プ・カテゴリーにおいても開発能力を持つドライバーとして評価も高まり、マシンを自分なりに作り    上げることにより実力以上の結果を出すことも可能となるでしょう。
日本の自動車レース産業が成長発展するとともに、日本製のレース用部品等の評価は飛躍的に    高まり、その高性能と信頼性により、瞬く間にヨーロッパの市場を凌駕し、将来的には、現状の一    方的な貿易収支を逆転することになるでしょう。
何よりも、将来的に多くの自動車開発技術者の卵が生まれますし、F1000 での活躍をチェックし    ていれば、その創造性と開発能力などを査定することが容易ですから、優秀な人材確保の手段    となるでしょう。
こうして詰められていくJMIA 標準部品の数々によって生産されるレーシングカーは、大変にコス    トパフォーマンスに優れた本格的なレーシングカーになりますから、今後、広く世界のマーケット    に浸透していくことになるでしょう。
このF1000 の開発システムが完成すれば、画期的なレーシングカー開発システムとして、世界    を対象に幅広い展開が可能となるでしょう。
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